農業におけるデジタルツインの活用

2024.02.29

近年急速に注目を集める革新的な技術にデジタルツイン(Digital Twin)というものがあります。

総務省によると、デジタルツインとは、現実世界から集めたデータを基にデジタルな仮想空間上に双子(ツイン)を構築し、様々なシミュレーションを行う技術のことを指し、街や自動車、人、製品・機器などをデジタルツインで再現することによって、渋滞予測や人々の行動シミュレーション、製造現場の監視、耐用テストなど現実空間では繰り返し実施しづらいテストを、リアルタイムでその状態や挙動を追跡・分析することを可能にします。

国内での利活用においては、製造業を中心に活用が始まり、現在ではまちづくりや、防災など幅広い分野で活用が進んでいます。

近年は農業や食の分野においてもデジタルツインの活用に向けた動きが活発化しており、農作業の効率化に向けたスマート農業の実現、後継者不足、フードロスの削減等、農業および食品業界における課題解決が期待されています。

本稿では、農業におけるデジタルツインの活用事例をいくつか紹介していきます。

株式会社Happy Quality・株式会社フィトメトリクス

株式会社Happy Qualityおよび株式会社フィトメトリクスでは、仮想空間上で農作物栽培環境を完全再現するデジタルツイン環境のプラットフォームを開発し、各農場に合わせてカスタマイズし提供しています。

本プラットフォームの導入の利点はいくつかあります。

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まず、果実の個数計測、熟度の推定、病害虫診断など、農業用画像解析AIの開発に必須なデータの迅速活用に役立ちます。

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栽培ハウスの新設やリフォーム時においては、オリジナル環境の生成、ハウスの間取りシミュレーションによる導線の整理、必要となる農業資材の見積り、収穫量の算出などを行うことができるようになります。

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また、遠隔地でも現場の圃場を、現実と遜色なくVR空間上で確認することが可能になり、訪問コスト削減や省力化に繋がります。

(参考:株式会社Happy Quality HP)

農業用無人走行車の開発や各農場に合わせてたカスタマイズ機能も提供しており、開発した農業用無人走行車は、小回りの利く車体に走行用センサと植物観察用のカメラを備え、農場全体の植物状態観察を可能にしています。

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両社では、今後もデジタルツインプラットフォームを活用し、多くの農業者に向けた質の高い栽培指導を手がけ、データドリブン農業の実現と後継者不足に陥っている農業界の課題解決を目指すとしています。

株式会社 プラスプラス

株式会社プラスプラスはスマート農業の新しいソリューションとして、仮想空間に農園を再現するプラットフォーム「全天候型3Dシミュレーター/Smart3tene」を開発していします。

3DCGで表現された仮想空間に、多様な樹木・果実・野菜を大量に生成した農園環境を高精細に再現し、ロボットを用いた摘果や収穫のシミュレーションを行います。

また、再現した3Dの空間内では、キャラクター化したAIアバターによる摘果や収穫のシミュレーションができたり、季節や時間の経過の設定が可能になっている点が特徴的です。

他にも秋田県立大学との共同研究「アグリデジタルツイン」で開発した「リモート草刈機シミュレーター」をオープンソースで公開する等、農業用デジタルツイン環境を活かして、農業における課題やデジタルツインそのものが抱える課題に対して解決策を提供し続けています。

DXAS Agricultural Technology(カゴメ株式会社と日本電気株式会社(NEC))

加工用トマトの生産は新興国を中心とした人口増加や経済成長に伴い、今後も拡大が見込まれています。一方で、持続可能なトマト栽培には、生産者減少への対応や環境負荷低減など様々な課題解決に取り組む必要もあります。

カゴメとNECは2015年より、IoTとAIを活用した営農アドバイスの技術開発や事業検証に着手し、ポルトガルを中心に各国で実証試験を重ねてきました。

2020年4月には、戦略的パートナーシップ契約を締結し、農業ICTプラットフォーム「CropScope」の精度向上につとめてきました。2022年7月には、カゴメとNECは、AI を活用して加工用トマトの営農支援を行う合弁会社をポルトガルに設立しています。

「CropScope」の特徴は、センシング技術で畑の状態を見える化することに加えて、その現状を診断して改善する営農アドバイスを提供していくところにあり、NECが培ってきた天気予報やAI解析技術を用いています。

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サービスを使えば使うほど、営農データが「CropScope」に蓄積され、データを最大限に活用し、農場に合わせて最適化された営農指導や圃場管理の自動化を実現します。

まとめ

このように農業におけるデジタルツインの活用は、生産性の向上、作業負荷の低減、持続可能な農場の確保等、さまざまなメリットがあり、農業に革新をもたらす重要な技術の一つです。

今後も技術の進化と農家や農業に携わる人のニーズに合わせて、デジタルツインの活用がさらに拡大していくことが期待されます。

デジタルツインの活用は持続可能な農業生産性の向上やスマート農業の実現に向けた大きな一歩となるでしょう。

Smart3tene

デジタルで拓くサステナブルな農業の未来 ~加工用トマト栽培の変革を目指すカゴメとNECの挑戦~