農業用ドローンの導入メリットと注意点について

2024.02.26

農業は、テクノロジーの進化と共に新たな局面を迎えています。その中でも注目を集めているのが、空を舞台に活躍するドローンです。本記事では、ドローンが農業にもたらす変革と未来の可能性に迫ります。

農業用ドローンの登場

農業界では人口減少・少子高齢化に伴い、他産業に比べても著しく農業従事者の減少が進んでいます。その一方で、担い手への農地集積が進み、経営規模は拡大傾向にあります。

しかし、機械化が難しい作業等のために、1農業者あたりの作業可能面積には限界があり、農作業管理技術も熟練農業者の経験に大きく依存する等、農作業の大幅な省力化・生産性向上、誰もが取り組みやすく再現性のある農業の実現が不可欠になってきています。

これを実現するために、発展著しいロボット・AI・IoT等のスマート技術を農業に積極的に取り入れていく必要があり、その一手法として近年では「農業用ドローン」の注目が高まってきています。

2019年には農林水産省が「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」を立ち上げ、農業用ドローンの普及拡大に向けた取組を推進しており、多くの農業従事者が導入を始めています。

そこで、農業用ドローンとは一体どのようなものなのか?本記事では、農業用ドローンを導入することによるメリットや注意点、今後の展望などについてご紹介します。

農業用ドローンの導入によりできること・導入のメリット

農業用ドローンといえば、農薬散布の分野での活用が有名ですが、実は肥料散布や播種(はしゅ)、受粉、生育状況のセンシング、農作物等運搬など幅広い分野で活躍しています。以下では農業用ドローンの活用事例を紹介します。

【農薬散布】

前述の通り、農業用ドローンといえば、農薬散布の分野での活用が特に進んでおり、水稲や野菜、いも類等様々な圃場でドローンの導入が広がりつつあります。

令和元年7月、農業用ドローンの利活用拡大に向けて各種規制の見直しが行われ、農林水産省によりドローンで農薬散布を行うためのガイドラインが発行される等、国としてもドローンの活用を後押しするような取組が進められています。

drone-25.pdf (maff.go.jp)

【肥料散布】

農薬散布のみならず、肥料散布の分野においても農業用ドローンが活用されており、生産者の負担軽減と作業効率化に貢献しています。

これまでは肥料散布に10aあたり30~60分を要していましたが、ドローンによる散布を導入したことで、10分間で作業完了する等大幅な労働力の削減効果が出ています。

drone-26.pdf (maff.go.jp)

【播種】

種まきの分野では、メーカーや先進的な農業経営体が主体となって、ドローンによる水稲の直播実証、導入が進められています。

ある直播業者では、従来、直播機を活用して播種作業時間に10aあたり10分を要していましたが、ドローンを使用することでこれを2分に削減し、収量も直播機を用いた栽培方法と同程度を確保している実績があります。

【生育状況のセンシング】

ドローンからの空撮画像をもとに、作物の生育状況や土壌の肥沃度、病害虫・雑草等の発生状況等を「見える化」し、センシングで収集したデータによりピンポイントで施肥を行い育成のムラをなくす取り組みや、適切な収穫時期の予測、翌年以降の土づくりに生かす等の取り組みに活用されています。

今まで目視で行ってきた圃場のセンシングが、ドローンに取って代わったことで作業時間の大幅な短縮が実現しています。

他にも先進的な取り組みを行う農業経営体では、ドローンにより雑草の発生状況の可視化や作物の病気の早期発見に活用されています。

農業用ドローンを導入する際の注意点

一方で、農業用ドローンの導入には慎重な検討が必要です。以下に導入時の注意点をいくつか挙げてみましょう。

【法規制と許認可】

各地域にはドローンの運用に関する法規制が存在します。適切な許認可を取得し、法的な要件を守ることが欠かせません。これにより、違法な問題を未然に防ぎます。農林水産省では農業用ドローンの使用に当たって事前に国土交通省への許可・承認の申請を行うようアナウンスをしており、航空法に基づく飛行の許可・承認手続きについてガイドラインを発行しています。

drone-25.pdf (maff.go.jp)

現在はドローンの飛行に必要な知識や技術を学ぶことができるドローンスクールもあり、基礎知識や操作技術の習得が望まれます。農業用ドローンを適切に活用するためにも、農業従事者は機器の使い方やデータ解釈のスキルを磨くことが必要です。

【初期費用がかかる】

農業用ドローンの価格は、機種や機能によってさまざまですが、一般的に100万〜300万円ほどかかるため、初期費用がかかってしまいます。

これまでの作業状況や圃場の面積によってはドローンを導入することによるメリットよりもかえってコストがかかってしまう可能性もあります。

目安としては、7ha以上だとドローンを活用したほうがコストを抑えられることが多く、7ha以下の場合は業者に依頼したほうが安くなる可能性が高いとされていますが、農業用ドローンの導入前に専門業者へのヒアリング等を通じて、十分に比較検討をするのがよいでしょう。

今後の展望

現在は実証実験の段階ですが、今後、農業用ドローンの導入が加速する中で、以下のような役割が期待されています。

【受粉】

近年、先進的な農業経営体において、リンゴなどの自家不和合性が強い品種でドローンを活用した授粉作業の取組が進められています。

省力化、経費節減、収益性向上に向けて、溶液授粉作業の請負や薬剤散布、摘果、果樹作業全体のコンサルティング等、ビジネス化の可能性が広がっている領域として注目が高まっています。

【農作物等運搬】

収穫した農産物の集荷場への運搬にかかる負担を減らすために、ドローンによる農作物運搬の実証試験が行われています。

今後、ドローンの最適な自動集荷ルート設計と検証飛行を行い、ドローンによる新たな配送手段が確立されることで、農業従事者にとっては大幅な作業負担の軽減につながり、効率的な運搬手法の確立により、CO2排出量の削減等、環境への配慮にも一役買うことが期待されます。

農業用ドローンの進化はこれからも続き、ますます多岐にわたる農業活動に影響を与えていくでしょう。