農業を始めたきっかけを教えてください
実家がりんご農家で、物心つく頃には「家を継ぐのかなぁ」と考えていました。ですから、りんご農家以外の道を考えたことがないんです。農業高校で学び、大学も農学部に進んで、卒業後は一度、企業に就職しました。ただ、就職先も農業をやっている会社。そこで3年半お世話になった後、家を継いだのですが、翌年に父が突然の他界。昔から家を継ぐつもりではいましたが、こんなに早く独り立ちするというのは予想外でした。戸惑いながらも、母や先輩方をはじめいろんな方々に助けられて、どうにか今に至ります。
昨年、ご自身でやってみたかったことを3つかなえたそうですね
はい、そのうち2つは昨年(2023年)11月に地元岩手で開催された東北農村青年会議(全国農業青年クラブ協議会(4Hクラブ)の東北ブロック大会)関連です。私は岩手県農村青年クラブ協議会(岩手4Hクラブ)の会長を務めているのですが、この大会が任期中で1番大きなイベントですね。
1年以上準備する中でいろいろやりたい事を詰め込みすぎてしまって、事務局が1番大変だったと思います。もちろん、やりたいことをすべて実現出来たわけではありません。でも、「やりたいことランキング」の1位と2位は出来たので、良かったなと。
1つ目は、TED方式での主催者挨拶です。
アメリカのCEOたちが、スクリーンで映像を流しながら小粋にプレゼンしていますよね。あれがTEDです。
これまで普通のスピーチ形式だった意見発表を、TED方式に変えて行こうという話になったのですが、他の発表者にもそのイメージを共有してもらう必要があります。百聞は一見に如かずということで、自分が主催者あいさつを、TED方式でやってみました。
他県の会長さんたちからの評判が良くて安心しましたが、誰も動画で残してなかったのが悔やまれます。
2つ目は、遠い存在と思っていたテレビで活躍するアイドルを、会議に招くことです。参加した農家にとって、会議が有意義であるとともに刺激的な場になってほしい、という思いからです。ただ、アイドルを呼ぶにしても、農業に関係のある人にしたい。いろいろ考えを巡らしていた時、「全農の食の応援団」を務める「虹のコンキスタドール」の存在を知りました。
彼女たちの活動を深く見ていくと、彼女たちが本心から農業を応援してくれていることがわかりました。招待するだけではなく、感謝状を手渡したいとも思いました。 「頑張れ」と声を掛けてくれた人には、「ありがとう」と返すのが当たり前です。「全農の食の応援団」として活動している彼女たちに何かお礼をしたい。それを形にしたかったので、会議への参加を企画しました。
3つ目は、海外研修を4Hの県連事業にするです。
以前から日本と海外の農業の違いを学びたいと考えていたこと、また自分が研修で受けた刺激をもっと多くの人が受けるチャンスを作りたかったのもあり、3泊4日でドイツ、オランダ、ベルギーを訪問するという弾丸の研修でしたが、
現地の声を聞くのにとてもいい機会だなと思って農協青年部の海外研修に2020年1月に参加しました。
どうやって現地の方の声を聞こうかなと考えた時に、スーパーでインタビューしてみたらどうだろうかと思いついて、通訳の方に協力してもらいながら「農業にはどんなイメージがありますか?」と尋ねました。すると「食って大事ですよね」という答えが返ってきました。農業と食がこの国ではリンクしているんだなと感じて、日本とは感覚の違いがあることがわかりました。
日本の消費者はスーパーではじめて「食」を意識することが多いような印象をもっていて、農業と食が乖離しているように感じます。農家の私からすると、ここは繋がっているべきなのに、とも感じます。
この経験から「農を日常に」をテーマに、他の農家の皆さんとより深く農と食との関係性を考える海外研修を4Hクラブでもやってみたい!と考えるようになりました。
ただ、予算の関係などもあるため、まずは地元の岩手県から始めようと思い、4Hクラブの前会長にお誘いいただいたカンボジアでの農業視察研修に、つい先日(2024年1月)参加してきました。
前回のヨーロッパと比較すると、カンボジアはカジュアルに農業をしているなと感じました。というのも、昔から生活の一部として根付いていた農業を今も続けているという感覚のようで、農業=職業という意識があまりなさそうでした。
そのため、日本とは別の意味で、消費者が農業を意識しにくい国だという印象を受けました。
これら研修で感じたことが、そのまま「農を日常化」することに繋がるわけでも、すぐさま何かの課題解決に繋がるわけでもありませんが、このように農家が新しい価値観を学び、それを他の農家に話し伝えながら農家同士で意見交換ができるようになっていくことは、私たちのような若手農家(笑)が新しいアイデアと価値観でこれから農業を盛り上げていくためには重要な学びの機会だと考えています。今後は、どんどん海外研修での回数を増やして実績を積み上げて、一人でも多くの農家とこの経験を共有できるようにしていきたいです。
農業とは少し離れた挑戦をするのはなぜ?
ふり幅があった方が面白いでしょう。型にはまったものは、すでに皆がやっているイメージなので、何か1つは誰もやっていないものに挑戦してみたい!昔から人と被ることが苦手でした。
アイデアの段階で、やっぱりこれは現実味がないなと思うこともあります。自己満足で終わるのではなく、周囲にしっかりと還元できることをしたい。僕自身が引っ張るのではなく、僕がきっかけ作りをして、皆でそれを盛り上げていくイメージ。高校生の時から、「これやってみたら楽しそう!」と構想を練るのが結構好きでした。割と昔から、面白いことをやってみたいなと、ふと考えては、友人とアイデアを共有していましたね。
今後取り組んでみたいことを教えてください
農業はメディアに出る機会が少ない。こうした状況を打開するため、TGC(東京ガールズコレクション)の農業版を開催したら面白いのでは、と考えています。「NGC(農業ガールズコレクション)」です。ワークマンなど農家に人気のあるブランドの服を着てランウェイを歩いてもらう。ガールズコレクションといえども、女性だけではなく、家族連れやおじいちゃん、おばあちゃんも一緒に、家族みんなで楽しめるようなイベントにしたい。地元の農家さんにも出てもらって、世代問わず楽しんでもらうきっかけを作りたい。
もう一つは「王子様コンテスト」です。○○王子と呼ばれる人たちが各方面にいますが、自称に過ぎないことも多い印象があります。4Hクラブ公認という形でコンテストを開催したら、「お墨付き」のようになって面白いのではと。メディアに取材にきてもらうことを前提で考えたいので、王子様候補は作目をしっかり作ることができて、農業全般に知識があるか、作っている作目の知識が深いか、なども審査の項目に入れて。もちろん見た目の王子様っぽさも重要です(笑)。さらに、審査員に及川光博さんに来ていただくとか、話題性もあっていいのかなと思います。
<インタビュアーより一言>
ふわっと感ずる甘い蜜の香りと、とろけるような甘味。初めて高橋さんのりんごを食して、その美味しさに感動して、声を失いました…!!
農業をどうPRしていくのか、広く知ってもらうために自身のアイデアで何かできることはないか。こうしたことを常に考えていらっしゃる高橋さんのお話は、聞いている私もワクワクするような内容ばかり。是非NGCの開催を楽しみしております!