「農のかけ算」農×シェア

2024.05.02

シェアリングエコノミーという言葉が世に知られて久しいが、シェア・共有するという意識は実際にはどう変わっただろうか。一般的に知られるシェアリングについて考えてみたが、パッと出てきたのはシェアオフィス、シェアハウス、カーシェアなど。シェアリングサービスと言われるものは実際にはたくさんあるのだろうが、山梨の田舎で暮らす私には普段そのサービスのお世話になる機会は少ない。

調べてみるとシェリングの概念の中に中古市場も入ることもあるようで、そういう意味ではメルカリやジモティーなども入るのだろうが、昭和生まれの私にはしっくりこない。

農業の世界ではどうだろうか。

私のアンテナもたかが知れてはいるが、農業が盛んな地方でも農業関連でシェアされていると感じるのは人材だ。特に今は外国人の特定技能生が農業、漁業の分野で派遣という形が数年前から認められたため、派遣会社に雇用された特定技能生はシーズンごとに農繁期の地方を回っているイメージがある。

様々な意見はあるが、基本的に私が知る特定技能生は休みを多くもらうより、残業も多く仕事を求めている傾向にあり、それが地方や品目によってハイシーズンが異なる農家との利害が一致しており、お互いに価値になっているのだろう。

外国人実習生が働くレタス畑

人のシェアリングについては他にもやり方があると感じている。

全国でどこまでそんな動きがあるかはわからないが、日本人で法人社員や農家自身が農閑期に地方の農繁期の農場に赴くこともできるはずだ。実際に私がいた法人では長野に拠点を置き、夏の栽培が主だったが埼玉の白菜の出荷組合と連携し、高齢化で出荷が大きな負担となる重量野菜である白菜の出荷を作業受託でうけ、冬の収益にしていた。また、これも長野になるが水稲農家が地元での栽培と同時に沖縄での水稲栽培を行っているところもある。長野の様な冷涼でシーズンが限られている地域では通年栽培が難しく、収益性がどうしても農繁期に偏りがちになる。そういった中でオフシーズンの空いた人材を地方にシェアすることで通年の収益を確保するのが新しい戦略の一つとなっている。

これ自体は全国の法人や農協などがうまく連携できれば、さほど難しいことではないが出張の概念の少ない農家や農業法人社員が受け入れられるかが課題だろう。ただし、これには収益以外のメリットも少なくない。外の世界、違う農業を知ること自体は自身や社員の成長につながることは間違いないからだ。私のように飽き性の人間は毎年のルーティーンから抜けられるのなら喜んで外に行きたいものだが、冬は休み時という習慣になってしまっている人には少し難しい可能性もある。

人以外で考えるとやはり機械のシェアを思い浮かべる人が多いだろう。

実際に大手トラクターメーカーであるクボタも農機のシェアリングサービスを始めている。これはそもそも農機自体がかなり高級なものでありつつも、シーズン中以外は遊んでいる状況があまりにもったいないことと、新規就農者が高額な借金をしてまで農機を買ったところで成功するかはまた別の問題であることから、そこの間口となるためであろう。それに加えて、プロがメンテナンスするということは農家にとってもありがたいことでもある。ただし、実際にそれがビジネスとして回るかは疑問である。

農機の輸送は簡単ではない。同じ地域であるなら気候も天気も同じように受け、品目も似通ってくる中では結局繁忙期が重なってしまう。ようは天気を見ながら耕作等の機械作業をしている農家なので、機械を借りたいタイミングがバッティングしまくるのだ。これでは機械がいくつあっても足らなくなってしまう。

農機トラクターの写真

さらに言うならば、田舎では一人一台の車がないと生活できない状況の中で必要な時に毎回レンタカーを借りる人がいないように、いちいち予約状況などを見ながら、費用を計算してレンタルするのは面倒極まりない上に、ここぞというときに借りることができないリスクがどれほど大きいか農家はよくわかっているはずだ。

そういった意味では農機のシェアサービスは少し難しいのでは?というのが私の感想だ。ただ、シェリング自体はマッチングという形での可能性はあると思っている。農機を貸して少しでも収益を取りたい人と、持つ必要はないけど月一回程度借りたい人等のマッチングプラットフォームは有効だと感じる。

ただし、これにも課題はある。単発で借りたい人は多いと思うが、貸したい人はどうやら極端に少ない。すでにマッチングアプリの様なものはあるが、貸し手が少なく近場にあればラッキーと言わざる得ない状況だ。。わざわざ県外等に取りに行くのであれば、農作業を受注する会社は比較的あるのでそちらを選んだ方が話は早い。

そもそもなぜ貸したがらないのかでいうと、おそらくリスクが怖い、面倒なのだろう。私も小さな集落に住み、半ば強引にあてがわれた3畝ほどの畑を耕運機やクワで耕作しているが、かなり時間と体力がかかるのでお隣のおじいさんにお金は払うから時々借りれないかと打診したところ、「買えばいいじゃないか」と無下に断られてしまった。通年通しても数回ほどしか乗っているのを見たことがないトラクターを、である。もはや貸してでも動かしたほうが機械にとってはよいと思うのだが、話にもならず引き返してきた。

そういった意味で農機マッチングをするのであれば、地域の引退が近く、機械を持て余している高齢農家さんの協力のもと新規就農者受け入れ前提で「新規就農推奨地域」等の看板などを立てて行政主導で行うのが最も適当であろう。

人・機械とくれば、次にシェアするのは畑だ。

最近は有名な「シェア畑」もあり、都市部の人を中心に畑を持てない人の週末農業も需要があるだろう。それと同時に最近は畑という環境自体に需要があるような気がしてならない。というのはそこを栽培に使うのではなく、自然豊かな場所であったり、安全な場所としての需要が少なからずあるからだ。

畑で家族が農業を楽しんでいる様子

一番わかりやすいのはアウトドア。どんな畑でもよいというわけではないだろうが、地方には大自然に囲まれ、景色の良い場所にある畑も少ないないはずだ。そんなところを作業が入らないタイミングでアウトドアスポットとすればそれなりの需要もあるだろうし、隠れ家的な付加価値や農体験などを付ければ、単価も稼げるはず。最近ではキャンピングカーの需要も伸びており、カーステイというキャンピングカーのマッチングをする会社では車中泊スポットを募集しており、自由に利用料金を設定することもできる。

さらにイベントスペースや花火の舞台としても畑や水田は需要を見込める。

知り合いの花火師によると広い畑は花火を上げるのに最適な場所だとのこと。花火を上げた後もゴミはさほど落ちないし、紙くずが多少残っていたとしてもボール紙の様な分解されるものなので畑で悪さすることもない。また、私自身も牧草地でキャンプイベントを行っているが、田舎の畑の周りには民家も少なく、音楽イベントなどは比較的やりやすい環境にある。特に北海道などは数ヘクタールで1面の畑というのはざらにあるはずなのでクレームのこないイベント会場としてはこれ以上ない環境だ。シーズン中すべての畑が稼働しているとは思えないのでそこも有効活用は可能であろう。

シェアとは少し概念も異なるかもしれないが、果樹等のオーナー制度も最近はかなり多く、収穫時に体験込みで品物を手に入れられることを考えるとこれも農業、畑のシェアといえるだろう。個人的には、もはやこれは海外に売るべきではないかと思っている。日本の果樹やフルーツはアジア中心にかなりの需要がある。そういった中でインバウンド客も過去最高になっていることを考えると彼らに体験ごと高単価で売ったほうが実入りはよいだろう。持って帰れないことが課題になるだろうが、そこはシェアでよい。ようは外国人を日本でアテンドしている旅行会社に客の分だけ木を買ってもらえばよいだけの話だ。

トラクターを使ったDJの牧草地イベント

最後に一番これから価値があると感じるのは経験と技術のシェアだ。

これに関しては言わずもがなであるが、日本もすたれてきているとはいえ、世界に誇る技術大国であり、日本の製品はどこをとってもパーフェクトリーだといわれる。

であればその培った技術を求める海外に持っていくべきだ。もちろん国内の若手農業者や趣味で農業をやっている人にでも売ることはできる。

以前、新規就農者の離農率を危惧し、新規就農者へのコンシェルジュサービスを考えたことがあった。一概には言えないが、ネット社会やZ世代と言われる若手は地域に溶け込むことが苦手で組織にも入りたがらない。そういった中で相談できる相手が少なかったりする、であれば、携帯で聞ける農業に特化したコンシェルジュ(秘書・相談相手)に価値があると考えたのだ。

思いつく限りを上げてみたが。農業の中でシェアを考えるのであれば、それ相応にやり方は生まれてくるはずだ。ただし、そこには目的が明確になる必要がある。

何のためにシェアするのか。

ビジネス、流行、SDGs、プロモーション等々。何が良くて何が悪いなどと述べる気はないが、独りよがりで誰にとっても価値のないサービスはすぐに崩れていく。

共有することで価値が生まれ、それが経済を回すなら素晴らしいことだが、耳障りの良い言葉だけが独り歩きしがちなこの社会である。