スマート農業とは?|仕組み・メリット・デメリット・事例をわかりやすく解説

2025.09.29

近年、AIやロボット、IoTなどの技術が農業の現場にも広がり、「スマート農業」が注目されています。人手不足や高齢化といった課題を抱える中、作業の効率化や品質向上を目指す取り組みとして、導入が進んでいます。この記事では、スマート農業の仕組みやメリット・デメリット、サービス紹介までわかりやすくご紹介します。


この記事に登場する専門家

全国農業青年クラブ連絡協議会 元会長 水野 弘樹氏 

1994年北海道・平取町生まれ。実家でトマトと水稲を栽培し、2016年に就農。就農後、「びらとり4Hクラブ」に参画し、2019年には北海道アグリネットワークの会長を務めた。若手農家の組織化や政策提言に取り組み、アイヌ文化ゆかりの雑穀「イナキビ」の復興や地域イベントを通して、農業普及と地域活性化に向けて活動している。     

目次

  • スマート農業とは
  • スマート農業で使われる主な技術
  • スマート農業のメリット・目的
  • スマート農業のデメリット・課題
  • スマート農業の始め方
  • 課題別スマート農業の事例紹介
  • スマート農業の未来と普及への取り組み
  • まとめ

スマート農業とは

スマート農業とは、ロボット技術・IoT・AI・ビッグデータなどの先端技術を活用し、農作業効率化や品質向上を目指す農業です。農林水産省も「持続可能な農業の実現に欠かせない技術」と位置づけており、全国で導入事例が広がっています。

スマート農業が注目される背景には、以下のような要因があります。

  • 農業者の高齢化と人手不足
  • 重労働や長時間労働といった労務課題
  • 環境負荷を減らしつつ収益を確保する必要性
  • データ活用による農業経営の高度化
「精密農業」という言葉と混同されることもありますが、精密農業は主にデータに基づいた管理で、
作物の状態や圃場の状況を正確に把握・管理する手法を意味します。
そのため、スマート農業は、精密農業の考え方を含み、より広範な技術導入と経営支援を目指す概念となります。



スマート農業で使われる主な技術

スマート農業では、以下のような技術が活用されています。
ロボット技術 
スマート農業の代表例として、自動走行トラクターや収穫ロボットがあります。収穫ロボットはAIで作物の成熟度を判定し、人間に代わって収穫を行います。
IoT技術
スマート農業では、畑にセンサーを設置し、土の水分や気温などを測ることができます。そのデータをもとに、離れた場所から水やりを調整できる仕組みもあります。最近では、小規模農家でも使いやすいIoT機器が増えてきており、スマート農業が身近になってきています。
AI技術
AI画像解析による病害虫検出や収量予測は、スマート農業において経験や勘に頼らない営農を可能にします。スマート農業はAIによって、誰でも安定した品質を出せる仕組みを作り出しています。
ビッグデータ活用
営農管理システムでは、気象データや作業記録を統合し、スマート農業による農業経営の見える化が進んでいます。スマート農業は省力化だけでなく、経営判断の高度化にも貢献しています。


【水野氏コメント】
私が注目しているのは、「統合環境制御技術」です。ハウス内の温度・湿度・光・二酸化炭素・水・肥料といった、作物の成長に欠かせない環境要素を、センサーやAIを活用して一括で管理・制御します。これにより作物の収量と品質を最大化することができます。



スマート農業のメリット・目的

スマート農業には多くのメリットがあります。
  • 農作業の省力化:スマート農業によって、除草・収穫・散布などの重労働を機械が代替します。
  • コスト削減:スマート農業では施肥や農薬の投入を最適化し、無駄を減らします。
  • 収穫量・品質の向上:スマート農業は環境データを管理し、安定生産を実現します。
  • 技術承継の円滑化:スマート農業の作業データを蓄積することで、次世代への継承がスムーズになります。
  • 環境負荷の低減:スマート農業は過剰施肥や農薬散布を抑え、持続可能な農業を支援します。
このようにスマート農業は「農業を持続可能にするための仕組み」としての価値を持っています。

【水野氏コメント】
先ほど例にあげた「統合環境制御技術」は、特に新規就農者や若手農業者にとって心強い味方となります。経験が浅いうちは判断に迷う場面も少なくありませんが、リアルタイムで得られる具体的なデータをもとにすれば、勘や感覚だけに頼らず、客観的に判断することができます。そのため、迷う時間が減る代わりに「次はどんな工夫ができるだろう?」と発想を広げられるのも大きなメリットです。


スマート農業のデメリット・課題

スマート農業には導入ハードルも存在します。
  • 初期費用が高い:スマート農業の機器は数百万円単位になることもあります。
  • 機器間の互換性が低い:スマート農業では異なるメーカー間でデータ連携が難しい場合があります。
  • ITスキルの不足:スマート農業の操作やメンテナンスに不安を持つ農業者も多くいます。
  • 新たな業務負担:スマート農業ではデータ入力やモニタリングが増えるケースもあります。
  • 消費者の不安:スマート農業によるロボット収穫に対する品質や安全性への疑問が生まれる可能性もあります。
スマート農業を検討する際には、「課題解決のメリット」と「導入・運用の負担」の両方を見極めることが大切です。

【水野氏コメント】
スマート農業を導入する際に最も重要なのは、「なぜ導入するのか」という目的を明確にすることです。導入自体がゴールになってしまうと、実際の営農規模や課題に見合わない高額な製品を購入してしまったり、せっかくの機能を活かしきれず“宝の持ち腐れ”になってしまったりする恐れがあります。
そのため「収量を増やしたい」「作業を省力化したい」など、実現したいことを起点に考え、逆算して必要な技術を選ぶことが大切です。課題に即した適切な導入を行うことで、初めてスマート農業のメリットを最大限に活かすことができます。


スマート農業の始め方

スマート農業を導入する際のステップは以下の通りです。
課題を整理し、課題にあった技術を選ぶ                   
まずは、課題を整理し、それに合った技術を選ぶことがスマート農業の第一歩です。
たとえば「収穫に時間がかかる」「人手が足りない」「除草作業が重労働」といった悩みがある場合、それぞれに対応したサービスや技術があります。
農辞苑では、こうした課題に応じておすすめのサービスを探せる「課題探索マップ」を用意しています。
課題探索マップを活用する
低コストで簡単に導入できるか確認
スマート農業は、いきなり高額な機械を買わなくても始めることができます。
例えば、プロがロボットを使って農薬を散布してくれるサービスなど、便利な選択肢がどんどん増えてきています。
農辞苑では、規模や価格にあわせてサービスを検索することができます。
サービスを検索する

補助金・支援制度を活用
スマート農業の導入には、機械やシステムへの初期投資が大きなハードルとなります。そこで活用したいのが補助金制度です。
農林水産省「逆引き事典」では、営農内容や目的、導入したい技術などを入力すると、条件に合う補助金制度を自動でリストアップしてくれます。対象となる制度を横並びで比較できるので、自分の経営に合った補助金を効率的に見つけることが可能です。
農林水産省「逆引き事典」を活用する


【水野氏コメント】
 私自身もスマート農業の導入は、一度にすべてを取り入れるのではなく、段階的に少しずつ進めていきました。
最初から大きな初期投資をしなくても始められるのは良い点ですが、その一方で継ぎ足しのような導入になってしまい、全体として本当に最適だったかと振り返ると疑問が残る部分もあります。だからこそ、「何を実現したいのか」という目的から逆算し、必要な知識を身につけながら一歩ずつ判断していくことが、とても大切だと感じています。


                            

課題別スマート農業の事例紹介

ここでは実際の課題と、それを解決するスマート農業サービスを紹介します。

病害虫被害の予防:ミライ菜園「TENRYO」

課題: 露地やハウスを問わず、病害虫の被害に悩まされることは少なくありません。発生してから対応すると収量が減ったり、農薬コストが増えたりしてしまいます。特に気候の変動が大きい年は「いつどの害虫が出るのか」が読めず、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
 解決: 「TENRYO」は、防除DXアプリです。過去20年分の気象データと利用者の発生履歴をAIが解析し、病害虫の発生を事前に予測してくれます。発生前に準備や対策をとることが可能です。
 効果: 病害虫リスクを未然に回避でき、農薬の使用を最適化できます。収量の安定化や、対応にかかる時間・コストの削減にもつながります。


【こんな方におすすめ】
 ⇒病害虫被害に悩まされている方や、「散布のタイミングが分からない」と迷う方におすすめです。
 サービス紹介:ミライ菜園「TENRYO」




栽培管理の省力化:AGRIST「Sustagram Farm」

 課題: ビニールハウスでの栽培は、温度・湿度・CO₂管理などを経験や勘で行う場面が多く、作業効率や収益に差が出やすいのが現状です。後継者や新規就農者にノウハウを引き継ぐのも難しいという声があります。
 解決:「Sustagram Farm」は、ロボット・AI・最適化されたハウス構造を組み合わせた自動化パッケージです。設備設計から収穫・管理までをサポートしてくれるので、誰でも安定した運用が可能になります。
 効果:作業効率が大きく向上し、収益も安定します。経験が浅い農家さんや新しく農業を始める方でも安心して導入できるシステムです。


【こんな方におすすめ】
 ⇒ハウス栽培で経験や勘に頼らず、収益性と効率化を両立したい農家さんにおすすめです。
 サービス紹介:AGRIST「Sustagram Farm」




除草作業の省力化:FieldWorks「ウネカル」

 課題: 畝間が狭い作物を栽培していると、除草作業はどうしても人力に頼る部分が多く、時間も体力も消耗してしまいます。一方で、大型機械では入れないため効率が落ちてしまいます。
 解決: 「ウネカル」は畝間専用の草刈りロボットです。ラジコン操作で簡単に畝間の草を処理することができ、人が入るのが難しい場所でも対応できます。
 効果: 作業時間を大きく削減でき、体への負担や事故リスクも軽減します。狭い畝間が多い農家さんにとっては、頼れる除草パートナーになります。

【こんな方におすすめ】
 ⇒ 除草に時間を取られて困っている農家さんにおすすめです。
 サービス紹介:除草作業の省力化:FieldWorks「ウネカル」




収穫・葉かき作業の省力化:inaho「マルチ台車ロボット」

 課題: 施設園芸では、広い圃場を人が行き来しながら収穫や葉かきを行うため、効率が下がったり、体力的に疲弊したりすることが多いです。
 解決: 「マルチ台車ロボット」は、レール上を自動で走行し、作業員の移動をサポートしてくれるロボットです。収穫物や資材の運搬も担ってくれます。
 効果: 収穫速度は従来比で最大2倍、葉かき作業も最大50%の人員削減が期待できます。人手不足への対応にもつながり、省力化に大きく貢献します。


【こんな方におすすめ】
 ⇒収穫作業の効率にバラつきが出やすく、人手不足を補いたい農家さんにおすすめです。
 サービス紹介:inaho「マルチ台車ロボット」



 運搬作業の省力化:輝翠「Adam」

 課題: 果樹園や圃場で収穫した果物を集積所まで運ぶ作業は、重労働で腰や脚に負担がかかります。運搬に時間を取られることで、収穫そのものの効率も下がってしまいます。
 解決: 「Adam」は、自律走行で果樹園内を移動する運搬ロボットです。追従モードを使えば農家さんの後をついて果物を運んでくれたり、指定した場所を自動で往復してくれたりします。
 効果: 重労働から解放され、収穫に集中できます。運搬効率が上がることで、収穫作業全体の時間短縮にもつながります。

【こんな方におすすめ】
  ⇒果樹農家さんを中心に、収穫期の労働力不足や運搬負担を軽減したい農家さんにおすすめです。
サービス紹介:輝翠「Adam」


農薬散布の省力化:レグミン「自動農薬散布サービス」

課題:農薬散布は重労働で時間もかかるうえ、作業精度にばらつきが出やすく、効果的な防除が難しいと感じる方も少なくありません。
解決: レグミンの自動農薬散布サービスは、作物や畝幅に合わせ農薬を均一に散布可能なロボットです。初心者でも均一な仕上がりが期待できます。
効果:作業時間と労力を大幅に削減し、散布ムラをなくすことで防除効果を最大化することができます。また、バッテリー駆動のため、エンジン駆動に比べ、静かで周囲への配慮も万全です。


【こんな方におすすめ】
  ⇒農薬散布作業が重労働・負担と感じており、高度な技術導入に興味があるが、初期投資を抑えたい方におすすめです。
サービス紹介:レグミン「自動農薬散布サービス」



これらのスマート農業サービスは、現場の課題を解決し、持続可能な農業経営を支援しています。

スマート農業の未来と普及への取り組み

スマート農業は今後ますます普及が進み、導入のハードルも徐々に下がっていくと考えられます。技術の進化だけでなく、制度面からの支援も充実してきておりますので、最新の制度を定期的にチェックし、自分の経営に合った支援策を見逃さないようにしましょう。

  • 技術の進化と価格の低下:センサーやドローンなどの機器は年々性能が向上し、価格も下がってきています。これにより、個人農家でも導入しやすくなっています。

  • 共同導入・シェアリングの広がり:地域単位で機械を共同利用する取り組みも増えており、初期投資の負担を軽減する方法として注目されています。
  • 若手農業者や自治体の役割:情報発信や導入支援に積極的な若手農業者や自治体の存在が、スマート農業の普及を後押ししています。
  • 政策・制度の後押し:「みどりの食料システム戦略」など、国の支援制度が拡充されており、導入を検討する農家にとって心強い環境が整いつつあります。

【水野氏コメント】

スマート農業は、従来の営農の文化や慣習に変革をもたらす革新的な技術です。その活用には新たな知識や理解が必要ですが、導入によって作業の効率性や利便性は大きく向上します。単なる効率化ではなく、農業を次のステージへと引き上げ、これまで想像もしなかった可能性を切り拓く鍵となります。今後の普及と発展を通じて、農業の可能性を大きく広げていく重要な要素と位置づけられるでしょう。


まとめ

スマート農業は、収益性の向上や競争力強化に直結する技術です。自己資金での調達が難しい場合は、補助金制度を活用することでスマート農業の導入コストも抑えられます。

現在は、小規模農家でもスマート農業を活用できる環境が整いつつあり、効率化と品質向上の両立が可能です。
今後は、スマート農業を前提として圃場設計などを考えることが一般的になり、データを活用した経営や自動化された作業が当たり前になっていくのではないでしょうか。

農辞苑に掲載されている事例を参考に、スマート農業をどう組み込むかを検討することが、持続的な成長と収益拡大への第一歩となるでしょう。


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